新規事業開発の実務

どうせすぐ忘れるんでしょ\(^o^)/

事業開発で狙いやすいのは「再セグメント化」で生み出せるマーケット

 

 

社内起業家が「参入領域を探す」際に投資家の意向以外に何か手がかりはないだろうか?

 

シリアルアントレプレナーであり、スタートアップ理論の教育者でもあるスティーブン・G・ブランクは、著書の中で以下のように述べている。

すべてのスタートアップが同じであるかのように考え、行動するのは戦略的な間違いである。同様にあるスタートアップでうまくいった戦略・戦術は他のスタートアップにも適切であるという考えも誤りである。なぜなら、市場タイプ (後述) によって企業がすべきことは全く異なるからだ。

アントレプレナーの教科書 より

 

スタートアップが攻略を目論む市場にはいくつかのタイプがあり、それぞれで「成功するための要件」が異なるという。 

このブログで扱っているテーマは社内起業家が扱う「事業開発」だが、スタートアップの戦略論から、事業開発においてどのような市場を狙うべきか考察してみたいと思う。

 

市場タイプを把握しよう

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アントレプレナーの教科書[新装版]

アントレプレナーの教科書[新装版]

 

※「紹介したアントレプレナーの教科書」 だが、内容的にはややB向けビジネスに寄ったものになっている。C向けビジネスを検討する際はちょっと違うかもしれない。

 

新規市場

上記でいう「新規市場」というのは、いわゆる「破壊的イノベーション」にあたる事業である (実際に著書の中でブランクがクリステンセンの意見に触れている)。新規市場における事業開発のゴールは「全く新しい市場を創造する」ことである。

 

例えば「スマートフォン」というカテゴリとその経済圏を生み出したしたAppleや、SNSやマイクロSNSを生み出した FacebookTwitter もこの市場タイプにトライした成功者と言えるだろう。

これらのイノベーションは、観察者の優れた洞察とテクノロジーが噛み合わさった時に具現化するものだが、全く新しいがゆえに他者は理解できないと言われる (イノベーションのジレンマ)。

以下の記事で紹介したとおり、事業開発の現場では投資家を変えることはできないので、よほど理解のあるスポンサーの元で仕事をしているか、常識を超えた理論を説得させるプレゼンテーションや交渉ができないとしたら難易度が高い。

 

 

端的にいうと、イノベーティブな組織に所属しているか、上司がイノベーターか、どちらか出ない限りこの市場タイプを企業の事業開発部門で扱うのは難しい。 

逆に、アグレッシブなスポンサーであれば未知なる新規市場に関する洞察や魅力的なトークをとりあえずは聞いてくれるかもしれない。

 

既存市場の再セグメント化

「既存市場の再セグメント化」 とは、すでに顧客がお金を払って成立しているマーケットが、新しい切り口 (製品・サービ) の登場によって侵食されるするものだ。

 

先程紹介した アントレプレナーの教科書 では、低コストでの参入の例として、徹底的に省力化で実現した低コストを武器に航空業界に参入したサウスウエスト、さらにその後で路線を絞ることで高品質低コストを実現したジェットブルーのが掲載されている。

ニッチの例としては、大手が商圏に満たないとして無視していた小規模な街を積極的に攻略し、急成長したウォルマートの事例を挙げた。

 

これらは確かに発想の転換であるが、伝統的な競争戦略 (STP) に近い考え方であり、社内外のビジネスマンにも理解されやすい。 

 

リ・インベンション

日本国内では神戸大学三品和広先生が、イノベーションに代わるアプローチとして市場の最セグメントの可能性を指摘している。著書では「イノベーションは泥臭い」「イノベーションは儲からない」などとした上で ("いついかなるときも等しく有効とはいえない")、成熟期にある市場では「新しい価値基準を打ち立てる」アプローチを勧めている。

 

成熟期に入った日本で、イノベーションの代わりに何に力をいれるべきなのでしょうか。 (略) 日本企業が新しい挑戦に立ち向かうなら、従来のパラメーターを忘れて、新しい価値基準を打ち立てなくてはなりません。新しいパラメータを追加する程度では駄目で、そもそも測定可能な客観指標を捨てる覚悟が要るのです。 (略) 変わらないコンセプトと変わる技術、または変わらないコンセプトと消費者ニーズの中で大きなギャップが生まれたところでは、従来の枠内でイノベーションに挑むより、コンセプト自体の改訂に立ち向かう方が得策となるのです。

リ・インベンション―概念(コンセプト)のブレークスルーをどう生み出すか

 

 

リ・インベンションの中では、本ブログでも扱う「参入領域を探すための市場調査」を「標的探索」と表現した上で、例えば以下の切り口で市場の再セグメント化を検討する具体的なアプローチが提唱されている。

 

  • 誕生してから25年以上経過している
  • 技術の変化を問う
  • ニーズの変化を問う
  • 取り残された人を見つめてみる
  • 忘れ去られた機能を見つめてみる

 

同書の後半では、これらの仮説を事業として推進するためには人事制度・評価制度といった企業体質から根本に見つめ直すべきという提言がなされているが、ハーバーMBAで教鞭をとったこともある同氏の、日本の組織の成り立ちや合理性を踏まえた上での提言は非常に重みがある。購入した方はぜひ最終章「第9章 企業改造へのヒント」を読んでいただきたい。

 

一方で、賞味期限が切れ始めた「日本企業」の改造にも手を付けていかないと、中長期の展望が描けません。 日本企業を際立たせる最大の特徴は「全員経営」に求めることができます。最初の柱は「遅い昇進」です。 日本企業はブルーカラーをホワイトカラー化して、昇給・昇進への道を開き、現場従業員のエネルギーが前に向かうように仕向けたのです。さらに戦後の日本企業は「遅い昇進」に「頻繁な小幅の異動」を組み合わせました。 異なる上司の評価が同じ傾向を示すと、気が合わなかったとかいう言い訳が通りません。

上記のような戦略をとり、ミスを徹底的に排除する「合議による経営計画」が、なぜ欧米企業の逆襲にあって負けたのか。刊行が2013年なのでちょうどスマホSNSが流行り始めた当時の分析として、特に戦後日本企業の成り立ちを知らない若い世代は大きな学びが得られると思う。

 

既存市場

既存市場については事業開発というテーマと異なるため、細かい説明は割愛する。

今ある市場の中で、いかに安く、いかにスペックの高い製品・サービスを、以下に効率よくマーケティングするかという勝負になる。

 

狙うべき理由は「説明しやすさ」

結論として、社内起業家がターゲットとする事業開発の市場タイプは「再セグメント化しようとする市場」を推したい。

  

前にも述べたとおり、事業開発の現場は投資家を選ぶことができない。そのため、参入する市場を選ぶ時も投資家の理解が得られるかどうかは重要なポイントだ。

日本企業の意思決定は合議制であるがゆえに直感 (個人的による帰納的結論づけ) による意思決定がしづらく、だれにでもわかるロジックが求められる。新規市場が向いていない以上、顧客が認識しているニーズをリサーチや価値仮説検証によってあぶり出し、参入の合意を得るというのが最も成功率の高いアプローチだと考える。

消去法的に結論づけたが、既存市場を新しい切り口で眺めながら参入領域を探すのは、天才的なひらめきを持たないわれわれ一般的なサラリーマンでも再現・学習しやすいというメリットがある。

 

三品先生のいう「コンセプトのブレークスルー」に、ぜひあなたもチャレンジしていただきたい。

 

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余談

セグメントに関して、ブランク先生が「差別化戦略とは違うのだよ」という注釈をつけていたので掲載しておく。

セグメンテーションとは単なる差別化とは異なる。セグメンテーションとは顧客の心の中で自社が明快かつ明確な地位を得ることである。そして、その地位は唯一無二で理解しやすく、かつ最も重要なことは顧客が価値を感じ、欲し、今すぐ必要とする何かに関わっていなければならない。

これはおそらく、数値的・スペック的なポジショニングや差別化を牽制しての記述かと思う。ただ実際のところはよくわからない。